イラク戦争とスペースシャトル事故20035月執筆)

中澤 英雄(東京大学教授・ドイツ文学)

 

(これは月刊Hado2003年3月号に発表した「宇宙からのメッセージに耳を傾けよ――スペースシャトル事故と迫り来るイラク攻撃」という論文を、若干、加筆訂正したものである。両方の論文は、基本的な内容は変わっていないが、この新しい論文では、イラク軍に捕まり、その後救出された白人女性米兵ジェシカ・リンチさんのことが書き加えられている。

「イラク戦争とスペースシャトル事故」は「楽しく読めてときどき役に立つ本」2003年6・7月号(日本ビジネスホテル格付研究所)28-33頁に掲載された。)

2006年のアメリカ中間選挙で民主党が勝利し、12月末にはフセイン元大統領が処刑され、イラク問題が混迷を深める中、あらためてこの稿をアップすることにした。(200717日) pdfファイル

 

   英語版 Part 1   Part 2  (日本語版と完全に同じ内容ではありません)

 

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 アメリカとイギリスは二〇〇三年三月二〇日、イラク戦争に突入した。

 クルーズミサイル、クラスター爆弾、マイクロ波弾、バンカーバスター、気化爆弾、劣化ウラン弾などのハイテク装置で武装したアメリカ軍は、湾岸戦争以来の経済制裁で疲弊しきったイラク軍に対して圧倒的な勝利をおさめた。それは横綱と子供の相撲のようなものであった。

 サダム・フセインの独裁体制の崩壊は民主的なイラクへの第一歩である。しかし、今後のイラクはどのように再建されるのだろうか。複雑な民族問題と宗教問題をもつイラクに、はたして安定的な民主主義が根づくであろうか。米英の軍事的勝利は中東世界に真の平和をもたらすのだろうか。イラク戦争の終結は、次の戦争へのステップなのだろうか。アメリカはイラク攻撃の理由の一つに「テロとの戦い」をあげていたが、テロはなくなるのだろうか。世界は今後いかなる方向に動いていくのであろうか。民間人を含む数多くの死傷者、環境破壊、歴史的文化遺産の略奪と破壊はもとより、この戦争の払った代償はあまりにも大きいと言わなければならない。

 

意味のある偶然の一致

 

 イラクへの武力行使をめぐって国際社会が固唾をのんでアメリカの出方を見守っていたとき、重大な事故がアメリカを襲った――あたかも、迫り来るイラク攻撃に水をさすかのように。二月一日のスペースシャトル・コロンビア号の空中分解事故である。

 イラク国民はこの事故を、自国への攻撃を企てる米国に対する「神の怒り」と受けとめた(毎日新聞朝刊二月三日)。これに対して、ホワイトハウスの真向かいにあるセント・ジョンズ教会の日曜礼拝の担当牧師は、この事故をブッシュ大統領に対する「神の警告」とする見方を「でたらめ」と一蹴し、事故は開拓精神や自由を守る精神に伴う「代償」と説き、大統領を慰めた(AP通信)。

 イラク国民の多くはイスラム教を信じ、アメリカ国民の多くはキリスト教を信じている。イラク戦争が不可避という時点で起こったこの大事故を、両国民が神意との関連で解釈するのは、自然な反応かもしれない。

 しかし、キリスト教徒やイスラム教徒ではなくても、この事故には、単なる偶然とは片づけられない、あまりにも多くの不思議な暗合が見出される。

 ブルッキングス研究所客員研究員の中野有氏は、「萬晩報」というメールマガジンの「不吉なイラク戦 期待される平和構想」(二月八日)という論文の中で、こう書いた。

 

こともあろうにイスラエルのスペースシャトルの飛行士は、二二年前にバクダッドの核疑惑施設を先制攻撃したときの副操縦士であった。テキサス州のパレスティンという場所の上空でシャトルは爆発し、ブッシュ大統領のクロフォードの牧場の近くに落下した。何たる偶然であろうか。

宇宙の目的によって人類は生かされている。と考えると、コロンビア号の宇宙からのメッセージは何を意味するのであろうか。果たして今回の戦争を回避せよとの啓示か、戦争遂行後の不吉な結末を意味するのか。(1)

 

 「パレスティン」という地名は《Palestine》と書くが、これはまさにパレスチナのことである。

 中野氏があげる「偶然」を整理すると――

 

@    シャトルにはイスラエル人宇宙飛行士が搭乗していたが、そのシャトルがパレスチナという名の町の上空で爆発した。イスラエルの新聞もこの事実を驚きをもって報道している。(2)

 

A その宇宙飛行士イラン・ラモン氏は、一九八一年に行なわれた、イスラエル軍によるイラク原子炉空爆に参加した空軍パイロットである。アメリカのイラクへの先制攻撃のモデルは、イスラエルのイラク原子炉攻撃であると言われている。

 

B   シャトルは、イラク攻撃を推進するブッシュ大統領の故郷であるテキサス州の上空で爆発し、ブッシュ大統領の牧場近くに落下した。

 

 ブッシュ大統領の周囲を、チェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官など、「ネオコン」と呼ばれる強硬派の政治家たちが取り巻いている。彼らは親イスラエル的で、イラク攻撃の目的の一つは、イスラエルへのテロを支援していると見られたイラクを打倒することだったと言われている。イラク戦争でもっとも得をしたのがイスラエルであることはたしかだ。

 シャトル事故は、アメリカ・イラク・イスラエルをめぐる確執の三角形を、「意味のある偶然の一致」(C・G・ユング)によって、はからずも浮かび上がらせたのである。

 

アメリカ、イスラエル、インドの共通点

 

 この事故には、これ以外にも数々の「意味のある偶然の一致」が見出される。それを指摘してみよう。

 

C この事故は否応なしに、一九八六年のチャレンジャー号の爆発事故を想起させるが、奇しくも、両方のシャトルにはともに、様々な人種的、宗教的バックグラウンドをもった男五人、女二人という七人の宇宙飛行士が搭乗していた。

 

D コロンビア号の女性宇宙飛行士の一人はアメリカ人ローレル・クラークさんであるが、彼女は従兄弟を九・一一同時多発テロで失っていた。今回のイラク戦争は九・一一事件をきっかけ(または口実)にして実行に移された。ここにもシャトル事故とイラク戦争の結びつきが浮かび上がる。

 

 コロンビア号には、五人のアメリカ人のほか、一人のイスラエル人と一人のインド人の宇宙飛行士が搭乗していた。インド人宇宙飛行士とは、女性科学者カルパナ・チャウラさんである。彼女は、アメリカ人と結婚しアメリカ国籍になっていたが、インド国民は自国の英雄として熱い声援を送っていた。

 現在の国際政治において、宇宙飛行士たちの出身国であるアメリカ、イスラエル、インドの三カ国の間には以下のような共通点がある。

 

E テロとの戦い

 三カ国とも現在、テロとの戦いを熱心に進めている。アメリカの敵はアルカイダとイラクである。イスラエルの敵はパレスチナ人である。インドの敵はパキスタン人テロリストである。そして、これらの敵は大部分がイスラム教徒である。

 

F テロの原因

 一般人を無差別に殺戮するテロは絶対に許されるものではない。しかし、テロは理由なくして突然起こるものではない。テロにいたる前史、原因がある。テロを根本的に解決するためには、この原因を明らかにし、それを取り除かなくてはならない。しかし、三カ国ともその原因には目をつぶり、テロという現象だけを力で押さえ込もうとしているように見える。それはあたかも、病気の根本原因を治療することなく、痛みや熱などの表面に現われた症状のみを、鎮痛剤や解熱剤によって無理やり押さえ込もうとするのに似ている。それでは、「病膏肓に入る」で、病気(テロ)はますます深刻化するばかりである。

 三カ国がなぜテロの標的となるのかは明白だとは思うが、簡単に触れておこう。

 

a アメリカ

 九月一一日の同時多発テロはオサマ・ビンラディンが率いるアルカイダによって引き起こされたと言われている。ビンラディンは声明やインタビューの中で、アメリカがイスラエルと結託して、パレスチナ人の血を流してきたことをたびたび非難している。アメリカに対するテロの背景にはパレスチナ問題がある。

 アメリカがイスラエルを政治的、経済的、軍事的に支援してきたことはよく知られている。アメリカのバックアップがなければ、今日のイスラエルは存在しなかっただろう。

 フランスが国連安全保障理事会で拒否権を使ってもイラク攻撃に反対すると述べたとき、アメリカはフランスを激しく非難した。しかし、これまで拒否権を最も多く行使してきたのはソ連(今はもう存在しない国)で、次がアメリカである。イスラエル・パレスチナ問題で、イスラエルに少しでも不利になりそうな決議では、アメリカは必ずといっていいほど拒否権を使ってきた。アメリカの庇護のもと、イスラエルはパレスチナの占領地、入植地を拡大してきた。ジェニンのパレスチナ人虐殺に関する、ただのイスラエル非難決議でさえ、アメリカは安全保障理事会でただ一カ国、拒否権を使って葬り去った。

 中東の最大の軍事大国はイスラエルである。アメリカは、イラクには武器査察団を送らせ、自分の意向に従わないとなると、戦争をしかけてフセイン政権をたたきつぶした。イスラエルの大量破壊兵器も破棄させるのでなければ、アメリカはダブルスタンダードのそしりを免れない。

 イスラム過激派のテロの背後には、イスラエルを支援するアメリカへの憎悪がある。

 

b イスラエル

 イスラエルは、先住民パレスチナ人の土地を奪ったまま返還しようとしていない。イスラエルがいま行なっているのは、パレスチナ人をヨルダン川西岸とガザ地区に閉じこめるアパルトヘイト政策である。シャロン首相は、パレスチナ人の土地をすべてイスラエルに奪い取ろうとする大イスラエル主義者たちに支持されている。未来に一切の希望を持てない絶望から、女性までが自爆テロに走っている。

 

c インド

 一九四七年にインドとパキスタンが分離独立する際に問題になったのが、カシミール地方の帰属である。カシミール地方はイスラム教徒が圧倒的多数を占めるにもかかわらず、藩王がヒンズー教徒であったために、インドに帰属させられた。インドの領土欲、権力欲である。カシミールではイスラム教徒の反インド闘争が激化した。カシミール問題が原因となって、印パの間ではこれまで三度にわたって戦争が起こった。昨年は、アフガン問題に刺激され、イスラム過激派がカシミール地方やインド各地で度々テロを行なったので、印パ間の緊張が極度に高まり、一時は核戦争の危機さえもささやかれた。インドが核兵器を開発し、それに対抗する形でパキスタンも核兵器を持つにいたったのである。

 

G 核兵器

 そう、核も三カ国の間の共通点である。アメリカとインドが核兵器を保有していることはよく知られているが、イスラエルも核兵器を持っていることは確実である。

 

三カ国の間の軍事協力

 

 この三つの軍事大国の代表が同時にスペースシャトルに搭乗したのは、偶然なのだろうか。

 そもそも宇宙開発は当初から米ソの軍拡競争によって動機づけられていた。スペースシャトルも当然、科学の発展や宇宙ステーションの建設という平和目的ばかりではなく、軍事的な目的のためにも利用されていた。ヨーイチ・クラーク・シマツ氏は、アメリカ、イスラエル、インドの間に軍事協力関係があったことを指摘している。(3)

 アメリカとイスラエルが密接な軍事協力を行なっていることは、すでに有名である。イスラエルの軍事技術はアメリカのミサイルに使われているし、アメリカの戦闘機やヘリコプターは、イスラエル軍によるパレスチナ住民への攻撃に使用されている。

 イスラエル人宇宙飛行士ラモン氏は、一九七〇年代にユタ州の空軍基地で戦闘機パイロットの訓練を受けた。一九七三年には第四次中東戦争(ヨム・キプール戦争)にパイロットとして参戦。一九八一年にはイラクの原子炉爆撃に参加。一九八二年にはレバノン侵攻に参戦(このとき、シャロン現イスラエル首相が、数千名のパレスチナ難民の虐殺を命令したと言われている。そのためシャロン氏はベルギーで戦争犯罪人の告発を受けている)。このような経歴は、イスラエル人にとってはまさに愛国の英雄であろうが、パレスチナ人やイラク人などにとっては、憎むべき敵ということになるであろう。

 シマツ氏によれば、ラモン氏のシャトル搭乗は、アメリカとイスラエルの友好を示す単なる象徴的な意義にはとどまらないという。ラモン氏がシャトルで行なった研究の一つは、地中海沿岸地方の砂塵の調査である。これは、砂塵に隠れた敵をスパイ衛星によって発見するという軍事目的に直結している。

 またインド人チャウラさんの専門は、ロボット工学と航空力学で、彼女の研究は、垂直離着陸戦闘機ハリヤーや戦闘ヘリコプターの開発とかかわっている、とシマツ氏は述べている。

 アメリカとイスラエルの軍事協力ほど知られてはいないが、イスラエルとインドも軍事協力を行なっている。イスラエルの軍事教官はインド人兵士を訓練し、カシミール地方のイスラム教徒の反乱を抑え込むために、ガザやヨルダン川西岸でパレスチナ人を弾圧した方法を伝授した、とシマツ氏は指摘している。さらに田中宇氏は、イスラエルがインドの核兵器開発に協力してきた可能性が強い、と指摘している。(4)

 イスラエル人がシャトルに搭乗するということで、今回の打ち上げは、テロを警戒して、以前にも増して厳しい警備の中で行なわれた。さらに、インド人もパキスタン人のテロリストの標的となる可能性があったわけである。

 しかし、今回の事故が、テロリストの工作やアメリカに敵対的な国のミサイルによって引き起こされたものではないことは、アメリカ政府も認めている。

 

神とはいかなる存在か

 

 三カ国のあまりにも顕著な共通点を見て、あるイスラム聖職者は、今回のシャトル事故は、「アメリカ人、イスラエル人、ヒンズー教徒という、イスラムに敵対する悪の三位一体」への「神の罰」だと述べている。(5)

 「三位一体」はもちろんキリスト教の用語である。「悪の三位一体」とは、キリスト教徒ブッシュ大統領が言った「悪の枢軸」(イラク、イラン、北朝鮮)への当てつけである。ブッシュ大統領は「テロとの戦い」を「十字軍」にたとえた。また三月一九日の開戦演説は、「祖国と、祖国を守るすべての者たちに神の祝福がありますように」という祈りで結んでいる。ブッシュ大統領は強固な宗教的信念によって動かされているように見える。

 このように、シャトル事故とイラク戦争をめぐる言説には宗教的用語が頻出するので、筆者はここでどうしても「神」という問題についても触れなければならなくなる。それはまた、アメリカ、イスラエル、インドの三カ国とも、宗教国家といってもいいほど宗教に強く影響された国であり、その宗教観念が世界平和を脅かしている大きな要因の一つとも考えられるからでもある。そう、宗教の力が強いということも三カ国の共通点である。

 筆者は、神なるものが存在するならば、それはイスラム教とか、キリスト教とか、ユダヤ教とか、ヒンズー教などといった特定の宗教を依怙贔屓するはずはないと思っている。神は万人にとっての神であり、ある宗教を信じている、信じていないというだけの理由で、報償や罰を与えたりするはずはないと考える。だから筆者は、シャトル事故を、イスラム教徒を弾圧する三カ国に神(アッラー)が与えた罰だとは考えない。

 筆者は、神というのは宇宙の法則の別名だと思っている。宇宙の法則に違反すれば、いかなる宗教の信者であっても、それなりのしっぺ返しを受けるだけのことである。俗に「まかぬ種は生えぬ」とか「まいた種は自らの手で刈らねばならぬ」と言われる。仏教やヒンズー教では、この宇宙法則はカルマの法則と呼ばれている。

 人類は古代より、宇宙の法則を二つの面から解明しようとしてきたように思われる。心という内面世界と現象という外面世界である。古代においてはそれは統一された一つの営みであったが、ヨーロッパにおいて近代自然科学が確立して以来、この二つは宗教と科学として分離し、対立するようになった。

 宗教は、宇宙の中における人間存在の意義を神、法(ダルマ)、道(タオ)など呼ばれる究極の実在や法則との関連で説明しようとしてきた。これらはいずれも、筆者の表現では宇宙の法則ということになる。

 世界には様々の宗教が存在するが、それらはいずれもこの究極の実在、宇宙の法則の説明と見ることができる。それらの宗教はすべて特定の時代に特定の文化圏の中で生まれたので、その教義や儀式は互いに異なっている。数ある宗教の中で、たった一つの宗教、あるいは聖書やコーランといった一つの聖典が、究極の実在を正しく記述している唯一正しい宗教であり、他の宗教はすべて間違っているとは筆者には信じられない。各宗教はいずれも、宇宙の法則の多かれ少なかれ部分的なとらえ方だと思う。

 ただし、イギリスの歴史家アーノルド・トインビーが「高等宗教」と呼んだような、仏教、キリスト教、イスラム教などの世界宗教の間には、基本的な類似点も存在する。それらはいずれも愛、思いやり、平和の重要性を説き、戦争、憎悪、野蛮、貪欲さを否定している。これらの教えは、宇宙の法則を正しく反映しているものと見ることができる。

 宗教が主として心の面から宇宙法則を記述しようとしたのに対し、科学は物の面から宇宙法則に迫った。科学のめざましい進歩については今さら言うまでもない。

 しかし、現代科学とて宇宙の法則を解明し尽くしたわけではない。大宇宙の発生についてはビッグバン理論があるが、これは推量的仮説にすぎない。物質の究極は今なお不明である。いかに遺伝子の解析が進んでも、どのようにして生命が誕生したかはいまだ謎である。そして、物質体である人間にどのようにして心の働きがあるのか、ということもわからない。人類がこれまでの科学で解明しえた諸法則は、宇宙の法則のほんの片鱗にすぎない。

 遺伝子研究の村上和雄博士は、遺伝子の仕組みを解明した現代科学の驚異的発展に敬意を表するが、その研究過程で、微細なDNAに遺伝子情報を書き込んだ、人智を絶した大自然の英知に脱帽し、それを「サムシング・グレート」と呼んだ。遺伝子研究では大腸菌が活用されるが、現代科学は大腸菌一匹すら創り出すことはできない。宇宙を成り立たせ、万物を司っている偉大なる法則は、人間の科学を超えており、「神」としか呼びようのない神秘である。ニュートンであれアインシュタインであれ、真に偉大な科学者は宇宙の神秘の前に謙虚に頭を垂れ、それを神と呼ぶことをためらわない。

 神(宇宙法則)の実体はかぎりなく深く、はてしなく高いが、その根本属性が「進化」と「調和」ということはたしかだと思う。宇宙の中でも地球上でも、万物は常に進化している。そして、小はミクロの素粒子のレベルから、大は太陽系、銀河系まで、万物は調和によって成り立っている。調和が崩れたように見えたときは、それを補うための力がすぐに働き、より大きな調和が回復される。調和からはずれたものは、やがて消滅する。調和の中で宇宙の進化が行なわれる。

 人類も地球という宇宙の星の中で生きている以上、人間社会もやはり宇宙法則と無縁ではありえない。調和という宇宙法則を人間の領域に引き寄せれば、それは公正、バランス、平和ということになるであろう。高等宗教の愛と平和と思いやりの教えは、宇宙法則の調和の人間的表現であろう。極端な貧富の差、権力の集中、人種差別、戦争や闘争はすべて不調和であり、宇宙法則に反した事態である。このような不調和はいずれ時の流れの中でバランスされ、いやおうなしに調和の方向にもって行かれるに違いない。いわゆる因果応報とは、作用・反作用という宇宙のバランス作用の宗教的表現にすぎない。

 

宇宙空間は神聖な場

 

 今日では神が天にいると信じている人は少ないだろう。

 人類最初の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンは唯物論国家ソ連の飛行士だった。ガガーリンは、「天には神はいなかった。あたりを一所懸命ぐるぐる見回してみたがやはり神は見当たらなかった」と述べたという(立花隆『宇宙からの帰還』中公文庫)。

 このような言葉が生まれてくるのは、神を擬人化しているからである。しかし、神というのは、髭をはやして、玉座に座っているおじいさんではない。神とは宇宙そのものであると思う。

 そして、たとえそこに人格神が見つからなくても、天、すなわち宇宙空間は、やはり地上とは違った不思議な空間である。神聖な空間と言ってもかまわないだろう。

 立花隆氏の『宇宙からの帰還』によれば、宇宙空間で神秘体験をする宇宙飛行士がときどきいる。彼らは地球への帰還後、キリスト教の伝道師になったり、スピリチュアルな活動に従事したりする。神秘体験とまでは言わなくとも、大部分の宇宙飛行士は、宇宙空間に出ることによって、地球への意識が大きく変わるようである。

 三度の宇宙飛行をしたアメリカ人宇宙飛行士ジーン・サーナン氏はこう語っている。

 

神の名は宗教によってちがう。キリスト教、イスラム教、仏教、神道、みなちがう名を神にあてている。しかし、その名前がどうであれ、それが指し示している、ある同一の至高の存在がある。それが存在するということだ。宗教はすべて人間がつくった。だから神にちがう名がつけられた。名前はちがうが、対象は同じなのだ。

宇宙から地球を見るとき、そのあまりの美しさにうたれる。こんな美しいものが、偶然の産物として生まれるはずがない。・・・何らかの目的なしに、何らかの意志なしに、偶然のみによってこれほど美しいものが形成されるということはありえない。そんなことは論理的にありえないということが、宇宙から地球を見たとき確信となる。(立花隆『宇宙からの帰還』)

 

 地球へのこの新たな意識を、イギリスの生物物理学者ジェームズ・ラヴロック博士の用語を借りて、「ガイア意識」と呼ぶことにしよう。ラヴロック博士は、地球は単なる物質の固まりではなく、全体として一個の生命体と見なせる、という仮説を提唱した。博士は、この活ける地球=地球生命体を、ギリシア神話の大地の女神の名を使って「ガイア」と呼んだ。国境や宗教の相違を超えて、地球をかけがえのない一個の生命体としてとらえる意識を「ガイア意識」と呼びたい。

 宇宙空間は、人間をガイア意識へと目覚めさせずにはいない神聖な場である。その神聖な空間を、世界の真の平和と人類全体の幸福のために利用するのであれば、天はこれを許しもしよう。しかし、宇宙空間を、自国の覇権を確立したり、他国、他民族を抑圧したりという軍事目的で利用することは、まさに天を汚す行為ではないか。このような行為は、神の調和の法則とは相容れない。そういう行為は、不調和なるものとして、いずれ宇宙から排除されざるをえないだろう。

 

宇宙の中でのユダヤ教儀式

 

 ところで今回、宇宙空間の中で宗教儀式を執り行なった宇宙飛行士がいる。イスラエル人ラモン氏である。

 ラモン氏が、祖国イスラエルのために戦った軍人であったことはすでに紹介した。彼はまた、ホロコーストの生き残りの子孫として有名であった。

 

イスラエル人初の宇宙飛行士としてコロンビアに乗り込んだ同国空軍大佐のイラン・ラモンさん(四八)は、一枚の鉛筆書きの素描画を宇宙に携えていった。

 一四歳のユダヤ人ペトル・ギンツ少年が第二次大戦中にチェコスロバキア(当時)の強制収容所で描いた「月の風景」。ラモン大佐が「ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)に関するものを宇宙に持っていきたい」と、ホロコーストの記録を集めるエルサレムのヤド・バシェム博物館に依頼し、博物館がこの一枚を選んだ。

 祖父を強制収容所で亡くし、祖母と母親もアウシュビッツからの生還者。ラモン大佐は「苦難の歴史を背負ったユダヤ人の代表」として宇宙に飛ぶことに特別の思いを抱いていた。飛行前のインタビューでは「とりわけホロコースト経験者は、自分の飛行に特別の思いを抱くはずだ」と語っている。(6)

 

 朝日新聞のこの記事にもあるように、ラモン氏はアウシュヴィッツからの生還者の子である。彼はさらに、ホロコーストの生存者の手紙を宇宙船に持ち込み、アメリカ人宇宙飛行士デビッド・ブラウン氏に読ませた。シャトルの中では次から次へと課題があり、眠る間もないほど忙しいという。それにもかかわらず、ホロコーストの記憶を宇宙にまで持ち込もうとするラモン氏の執念には驚かされる。広島原爆ドームの写真や被爆者の体験記をシャトルの中に持ち込んだ日本人宇宙飛行士はいただろうか。

 ラモン氏はまた、熱心なユダヤ教徒でもあった。宇宙船の中でも彼は、ユダヤ教の規定に従ったコーシェル(清浄)な食事をとっていた。彼はユダヤ教のトーラー(律法)の小さな巻物をシャトルに持参した。このトーラーのもとの持ち主は、ナチの強制収容所で死んだラビ(律法学者)だという。ユダヤ教では金曜日の夜が安息日とされているが、安息日にはシャトルの中で礼拝をした。彼はイスラエルの上空ではシェマー(「聞け、イスラエルよ」)というヘブライ語の祈りを唱えた。

 ホロコーストとユダヤ教は、現代イスラエル人のアイデンティティの拠り所であり、またイスラエルに対する国際的同情をひきつけるための肯定的記号でもある。この記号をイスラエルは建国以来、最大限に利用してきたし、今でも利用している。強制収容所から宇宙にもたらされたトーラーは、イスラエル人は迫害を受けた受難の民であり、その堅固なる信仰によって生き延びたというイメージを作りだす。まして、その持参者がホロコーストの関係者であれば、その効果は満点である。

 このように、イスラエル国家は自分自身を犠牲者として演出する。受難の歴史それ自体は嘘ではないが、イスラエルの現実の顔はむしろ、アパルトヘイトの実行者という抑圧者のそれである。イスラエルが代表的イスラエル人に託して隠蔽しようとしていた暗い側面が、パレスチナであった。しかし神は、宇宙空間でのユダヤ教の儀式などは喜ばなかった。神は逆に、シャトルをパレスチナという町の上で爆発させることによって、イスラエル国民に、パレスチナ問題の公正な解決こそ神意であることを教えているように見える。

 このような解釈は、聖書に照らしてみても許されるだろう。なぜなら、旧約の預言者たちはたびたび、神は宗教儀式などは喜ばず、「悪を行なうことをやめ、善を行なうことを学ぶ」(イザヤ書第一章)ことこそ望んでいる、とユダヤ民族に伝えているからである。シャロン政権がいま行なっている政策を、ユダヤの預言者たちははたして「善」と認めるだろうか。

 

アメリカのキリスト教原理主義

 

 アメリカ人が宗教に熱心であることはつとに有名である。アメリカのキリスト教勢力は政治に強く介入する。その中でも最も過激なのが、キリスト教原理主義と呼ばれるグループである。

 キリスト教原理主義は終末論思想を持っている。終末論とはユダヤ教やキリスト教にある考え方で、ごく簡単に言えば、現在の世界が未曾有の大災害や大戦争によって滅亡し、そのあとにメシアが出現して、神の国そのままの平和な世界が訪れる、という信仰である。この大戦争――善と悪の戦い――のことをハルマゲドンの戦いという。旧約聖書のエゼキエル書やダニエル書、新約聖書のヨハネ黙示録にそのような終末予言が記されている。オウム真理教がサリンによってハルマゲドンを自作自演しようとしたことはよく知られている。

 グレース・ハルセル著『核戦争を待望する人びと』(朝日選書)によると、キリスト教根本(原理)主義者は、終末論が告げる大災害や大戦争を待ち望むという、常識では理解できない期待をいだいているという。これらの人々は、終末が来ても、正しい信仰の持ち主である自分たちだけはメシアに救われるので、早く大惨事が起こってほしい、と願っているようなのである。

 レーガン元アメリカ大統領はキリスト教原理主義に影響され、一時期、ソ連こそ聖書に書かれている「悪の帝国」であって、現代に米ソの間でハルマゲドンが起こると信じていたという。そんな終末思想の持ち主が核兵器のボタンを管理していたのであるから、危険きわまりないことであった。

 現ブッシュ大統領は熱心なキリスト教徒で、毎朝、まず聖書や説教集を読んでから政務を始めると言われている。彼は、「天国に入れるのはキリスト教徒だけか」というテーマで、父ブッシュ(元大統領)と論争をしたことが関係者によって証言されている。父ブッシュは、他の宗教の信者でも天国に入れると述べたが、子ブッシュは、天国はキリスト教徒のみのものだ、と主張して譲らなかったという。このような考えはキリスト教原理主義に近い(テレビ朝日「サンデープロジェクト」三月二日)。

 ブッシュ大統領に特徴的なのは、「悪の枢軸」発言に見られるような、単純な善悪二元論である。そのとき、もちろんアメリカが善の代表であり、アメリカに敵対する勢力は悪のレッテルが貼られる。そして、悪は武力を使っても滅ぼさなければならない存在とされる。単純な善悪二元論は非寛容になり、「汝の敵を愛せ」というイエス・キリストの有名な言葉を忘却せしめる。そして、「剣によって立つ者は、剣によって滅ぶ」という言葉をも。ローマ法王庁は、ブッシュ大統領とフセイン大統領が開戦演説で、ともに神の名を引き合いに出し、戦争を正当化していることを、「まさに悲しむべきこと」と批判した(朝日新聞三月二二日)。

 その「正義の戦い」によって、大勢の罪なき一般人が殺される。先の湾岸戦争の際にはアメリカ軍によって大量の劣化ウラン弾が使われ、その放射線被害にイラクでは今もなお多くの子供たちが苦しんでいるという。「イラクの自由」と名づけられた今回のイラク戦争でも、兵士ばかりではなく、大勢の民間人も殺傷された。劣化ウラン弾も使用された。クルーズミサイルのようなハイテク武器にも、有害物質が多く含まれている。この戦争がどのような後遺症を惹き起こすかは、これから徐々に明らかになることだろう。

 スペースシャトルが爆発墜落したテキサス州は、ブッシュ大統領の政治基盤であると同時に、キリスト教原理主義の盛んな土地でもある。シャトルの有毒な残骸がテキサス州にばらまかれたことは、ブッシュ大統領とアメリカ国民への天からの警告と見ることができよう。もし神と正義の名においてイラクの一般国民を大量虐殺したあかつきには、大事故、自然災害、テロリストによる攻撃などの形で、同じことが自分たちに返ってくる、という警告である。だが、ブッシュ大統領とアメリカ国民はこの警告に耳を傾けなかった――ローマ法王の警告にも耳を傾けなかったように。

 

インドの宗教紛争

 

 ここで、もう一つの宗教国家インドについても触れておかなければならないだろう。

 インドは多民族、多宗教国家であるが、その中で最大の勢力を誇っているのはヒンズー教である。昨二〇〇二年は、インド北部のアヨーディアという町にあったモスクの跡地にヒンズー教の寺院を建てる計画をめぐって、ヒンズー教徒とイスラム教徒との対立が激化し、千名近いイスラム教徒が虐殺された。宗教対立がインドの宿痾である。

 宇宙飛行士チャウラさんは北インドのハリヤナ州の出身で、パンジャブ工科大学で学んだ。ハリヤナ州は元来、イギリス植民地時代にはパンジャブ地方の一部だった。パンジャブ地方は、一九四七年に印パが分離独立する際に、イスラム教徒の多い地方はパキスタン・パンジャブ州に、ヒンズー教徒の多い地方はハリヤナ州に、シーク教徒の多い地方はインド・パンジャブ州になった。パンジャブ地方に属していたもう一つのヒマーチャル・プラデシュ州はヒマラヤ山脈中腹のヒンズー教の土地であるが、この土地のヒンズー教は、インドのそのほかの地域とは違った特徴があると言われている。宗教の違いによって国境や州境が引かれ、パンジャブ地方が分割されたことがわかる。

 パンジャブ地方のすぐ北にあるのがカシミール地方である。カシミール地方の大多数を構成するイスラム教住民がヒンズー教のインドへの帰属を望まないことから、印パの対立が生じている。

 チャウラさんの出身地、勉学地にはインドの複雑な宗教問題、国境問題が影を落としている。チャウラさんの死は、この問題を解決せよ、というインド人とパキスタン人に対するメッセージのようにも思える。

 

宇宙飛行士たちのメッセージ

 

 神とは調和であり、平和である。ブッシュ大統領やフセイン大統領のように、いくら神を引き合いに出してみても、敵を武力によって殺す者は、神のみ心にかなうとは思えない。アメリカもイスラエルもインドも、誤った宗教観念によって政治を誤り、世界を危機におとしいれている。これも三カ国の共通点と言えるだろう。

 ただし、事故で死んだ宇宙飛行士個人に罪はない。個人は、国の代表として宇宙空間に送り込まれただけである。天を汚したのは、国の政治的指導者であって、宇宙飛行士ではない。

 ラモン氏が愛国的なイスラエル人であることはすでに見た。しかし、神秘なる宇宙空間に滞在することによって、彼は次第にイスラエルという国境をも超えしまったように思える。

 彼は、シャトルから行なったシャロン首相との対話で、強制収容所からもたらされた例のトーラーを示しながら、最初にこう述べた。

 

 この品はまさに、恐ろしい時代にもかかわらず、すべてを超えて生き残るユダヤ民族の決意を表わしています。暗黒の日々を超えて、希望と救済の時代に到達するという決意です。

 

 これはまさに典型的なイスラエル人としての言葉だ。だが次に彼は、宇宙から見た地球の様子を尋ねられて、シャロン首相にこう答えた。

 

 お伝えしたいと思いますが、ここから私たちが見ることができるものは、驚異的です。私たちの惑星、地球は美しい。ほんとうに美しい。その中で私たちが生きることが許されている大気圏はとても薄いのです。夜になると、大気圏からの一種の反射を見ることができます。私たちはこれを心を込めて守らなければなりません。(7)

 

 どんな人間の中にも、国家・民族の一員という相対的個別性と、人類の一員という普遍性が同居している。ラモン氏はまさに代表的イスラエル人としてシャトルに搭乗したが、宇宙空間から見たあまりにも美しい地球の姿は、民族と国境を超える、地球人類の一員としての視点、ガイア意識を彼にもたらしたのだ。

 彼が希求したイスラエルの「生き残り」、「希望と救済」はどのようにして達成されるのだろうか。いまシャロン政権が行なっているような戦争、弾圧、制裁によってであろうか。それとも愛、思いやり、許し、相互の譲歩によってであろうか。ラモン氏は宇宙空間からイスラエル国民に何を伝えたかったのだろうか。

 このようなガイア意識は、ラモン氏だけではなく、多かれ少なかれ、七人の宇宙飛行士すべてに訪れたのではないだろうか。

 アメリカ人宇宙飛行士ブラウン氏は、ラモン氏の持ち込んだ手紙を読んで、ホロコーストにショックを受けた。しかし、地上の悲惨な出来事にもかかわらず、彼は地球の美を肯定する。彼は、「私が宇宙の中で生まれていたならば、これまで宇宙を訪ねたいと思っていた以上に、もっと強くこの美しい地球を訪ねたいと思うことでしょう」と両親へのEメールの中で述べた。(8)

 また、ローレル・クラークさんは事故の直前に地球に寄せたEメールで、「太平洋の上には光が広がっています。オーストラリアの曙は、眼下のオーストリアの都市の明かりと一緒になって、全地平線を明るく染めています。・・・ここからは富士山も小さな隆起に見えますが、とてもはっきりとしたランドマークです」などと、宇宙から見た地球の景観を詳しく記述しているが、彼女のメールは地球の美を讃える一篇の詩である。(9)

 

宇宙からの「イマジン」

 

 宇宙飛行士たちは赤チームと青チームの二班に分かれ、交代で作業を行ない、睡眠を取っていた。起床の際には、地上から飛行士の好きな曲を送って、モーニングコールとしていた。

 アメリカ人飛行士ウィリアム・マックール氏が選んだ曲は、ジョン・レノンの「イマジン」だった。

 

 〔特定の宗教信者だけが入れる〕天国なんかないと

想像してごらん

 そんなことはやってみれば簡単なんだ

 地面の下には〔異教徒が堕ちる〕地獄なんかない

 僕らの頭上に広がるのは美しい空だけだ

  〔宇宙は信仰の違いを超えて万人を包容する〕

 すべての人々が〔未来や死後のことを思い煩わず〕

今日の一瞬を真剣に生きているのを想像してごらん

 

 国なんかないと想像してごらん

 難しいことじゃない

 殺したり死んだりする理由もなく

 宗教もない

 すべての人々が平和に生きているのを

 想像してごらん

 

 財産なんかないと想像してごらん

 君にできるだろうか

 欲張ったり飢えたりする必要もなく

 人類はみな兄弟姉妹

 すべての人々が全世界を分かちあっているのを

 想像してごらん

 

 君は僕のことを夢想家だと言うかもしれない

 だけど僕ひとりじゃない

 いつの日か君も僕たちの仲間になってくれたらいいと思う

 そうすれば世界は一つになって生きるだろう

 

 「イマジン」は、九・一一同時多発テロ発生以降の世界情勢の中で、米英のアフガン攻撃やイラク攻撃に反対し、平和を求める人々の願いを託した歌になっている。レノン夫人のオノ・ヨーコさんは、アフガン爆撃開始直前の二〇〇一年九月二五日に、ニューヨーク・タイムズ紙に「すべての人々が平和に生きているのを想像してごらん」という全面一行だけの広告を出した。

 先の湾岸戦争のときには、「イマジン」は放送自粛曲にされた。九・一一事件以降、全米にラジオ局のネットワークを持つ「クリアー・チャンネル」という放送局は、「イマジン」を放送自粛曲にしたという。テキサス州に本拠を置いているこの放送局は、ブッシュ政権の支持団体である。アメリカにおいて「イマジン」はそれほど「危険な」曲と見なされている。

 アメリカ人であるマックール氏が、この曲の現在的意味を知らなかったとは考えられない。彼はそれを十分に知った上でこの曲を選んだのではないか。というのは、彼はシャトルからアメリカ国民に向かってこう語ったからである。

 

 私たちがいる周回軌道上という眺望のよい地点からは、国境がなく、平和と、美と、壮麗さに満ちた地球の姿が見えます。そして私たちは、人類が一つの全体となって、私たちがいま見ているように、国境のない世界を想像(イマジン)し、平和の中で一つになって生きるように努力することを祈ります。(10)

 

 そして、この言葉はラモン氏よってそのままヘブライ語に翻訳され、地上に伝えられた。

 ここでマックール氏はわざわざ「イマジン」という言葉を使っている。さらに、「平和の中で一つになって生きる(live as one in peace)」は「イマジン」のオノ・ヨーコ広告:

 

Imagine all the people living life in peace

(すべての人々が平和に生きているのを想像してごらん)

 

の部分と、レノンの歌詞の最後の部分:

 

And the world will live as one

(そうすれば世界は一つになって生きるだろう)

 

を踏まえている。マックール氏がジョン・レノンの曲に世界平和への明確なメッセージを込めたことは明白である。

 一九九二年にエンデバー号に搭乗した毛利衛さんも、「宇宙から見ると地球には国境がない」とおっしゃっていた。どの宇宙飛行士も、宇宙から見る地球の尊いまでの美しさに息をのみ、そして地球が国や民族や宗教の違いを超えた一つの全体=ガイアであることを強く感じるようだ。

 だが地上では、人類が人為的な相違によって自他を分断し、今なお各地で民族紛争、テロ、制裁戦争、環境破壊をつづけ、母なる地球を傷つけている。なんと愚かなことだろう。

 

もう一度パレスチナ

 

 ちなみに、ラモン氏の妻によって選ばれ彼に送られた曲は、ヘブライ語のラブソングだった。

 

あなたには私の声が聞こえるでしょうか、遠いお方?

あなたには私の声が聞こえるでしょうか、あなたがどこにいても?

私の最期の日はおそらくここでしょう

別れの涙の日が近づいています(11)

 

 事故後、ラモン夫妻が間近の死別を予言するような曲を選んだことに、イスラエル国民は衝撃を受けた。人間にはときどきこういう不思議なことが起こる。筆者の妹は二一歳のとき事故で死んだが、死の前に数々の別れの挨拶をしていたことにあとで気づかされた。肉身を失った人の中には、そういう経験した方がいるに違いない。ラモン夫妻は、意識の上では知らなかったが、心の奥深くでは互いの別れの近いことを予感し、覚悟していたのではなかろうか。ラモン氏はしかし、自分の使命を果たすためにあえてシャトルに搭乗したのである。その使命とは、イスラエル国民に、パレスチナ問題の公正な解決こそ神意であることを気づかせることであったと思う。

 ラモン氏にかぎらず、宇宙から寄せられた宇宙飛行士たちのメッセージは、自分たちの命とひきかえに地球人類に送った、「戦うな」「平和であれ」「人類は一つであることを知れ」「これ以上地球を傷つけるな」というメッセージである。それはまた、天、すなわち神の言葉でもあろう。

 三カ国の指導者と国民は、いやすべての国の指導者とすべての人類は、このメッセージに心して耳を傾けなければならないと思う。

 

 シャトル事故は、イラク戦争がパレスチナ問題と密接に結びついていることを教えている。そして、イラク戦争のさなかに、もう一つの「意味のある偶然の一致」が起こった。

 イラク戦争の最中にジェシカ・リンチさんという女性米兵がイラク軍に捕まり、そして救出された。この救出劇はアメリカ国民を大いに喜ばせ、やがてハリウッドで映画化される予定だという。

 このジェシカさんはなんとヴァージニア州のパレスチナという町の出身である(シャトルが墜落したテキサス州のパレスチナとは別の町)。この偶然の一致は、再度アメリカ人とイスラエル人にパレスチナ問題の公正な解決を求めているように思える。

 リンチ(Lynch)という名は、「私刑(リンチ)」と同じ語であるが、これも意味深長である。

 国際法学者は、米英の今回のイラク攻撃は国際法違反だと指摘している。現在、米英軍はイラクの政治的指導者たちを捜索しているが、彼らが逮捕されたとき、彼らはどのような裁判によって裁かれるのであろうか。彼らには、その裁判において、自らの潔白と米英の先制攻撃の法的不当性を主張する機会が与えられるのであろうか。イラクの政治的指導者を裁く資格があるとしたら、それはイラク国民(民主的なイラクの裁判所)か国際刑事裁判所だけであろう。もし戦争の勝者が敗者を裁くならば、それは東京裁判と同じ不当な「勝者の裁き」になる。それはまさにリンチ以外の何ものでもないだろう。そのようなことがまかり通るならば、世界は、法の支配しない「勝てば官軍」の世界になる。

 ジェシカ・リンチさんをめぐる「偶然の一致」は、今回のイラク戦争が法を無視したリンチであることを示唆しているように見える。

 アメリカ人とイスラエル人が、数々の「意味のある偶然の一致」に込められた宇宙からのメッセージに一日も早く気がついてほしい、と祈らずにはいられない。

 

 

注(インターネット上の出典。現在ではリンク切れもあります)

 

(1) http://www.yorozubp.com/0302/030208.htm

(2) http://www.haaretzdaily.com/hasen/pages/ShArt.jhtml?itemNo=258418&contrassID=2&subContrassID=1&sbSubContrassID=0&listSrc=Y

(3) http://www.alternet.org/story.html?StoryID=15092

(4) http://tanakanews.com/980812israel.htm

(5) http://www.spectator.co.uk/article.php3?table=old&section=current&issue=2003-02-08&id=2761

(6) http://www.asahi.com/special/space/TKY200302020122.html

(7) http://www.chron.com/cs/CDA/story.hts/space/1760882

(8) http://www.newsday.com/news/health/ny-hstock093122657feb09,0,355163.story?coll=ny-health-headlines

(9) http://www.heraldtribune.com/apps/pbcs.dll/artikkel?Dato=20030204&Kategori=NEWS&Lopenr=302040007&Ref=AR

(10) http://www.1spirit.com/eraofpeace/columbia.html

(11) http://www.upi.com/print.cfm?StoryID=20030202-052352-5192r



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